開かずの踏切が引き起こす問題
事故による損失
列車は多くの人が利用しています。特に通勤時間など利用する人が多く満員電車になるような時間は数えきれないほどの人が列車を乗り降りしています。そのため、ひとたび事故が起こると与える影響は計り知れず多大なものとなります。
スローペースとはいえ開かずの踏切が少しずつ解消されていることもあり踏切事故は減少傾向にありますが、それでも1日に1件のペースで事故は発生しています。そのうち、死に至る事故は4日に1件のペースで発生し、開かずの踏切と一般的な踏切を比べてみると開かずの踏切の方が4倍ほど高い割合で事故が発生しています。
踏切事故の被害者の多くは足腰が弱い高齢者ですが、これは列車の過密ダイヤが関係しています。複数路線の乗り入れが多くなると運行本数も増えるため、列車と列車の感覚が短くなります。そのため、踏切で列車が通過してもまたすぐに次の列車が通過すことになり、それを繰り返すことで遮断機が上がらない、開かずの踏切となってしまうのです。高齢者にとって踏切が開くわずかな時間で渡り切るのは大変難しいため、渡り切れずに事故に巻き込まれてしまうのです。
渋滞による時間の損失
開かずの踏切によって引き起こされる交通渋滞による時間的損失も無視できません。全国の踏切の渋滞による時間の損失は1日あたりおよそ40億円相当。そのうち開かずの踏切による損失は5万円相当ですが、時間に換算すると16時間40分ほどとなり、1日の半分以上の時間を渋滞によって失っていることになります。
1日の半分以上が踏切で閉ざされていると、街も分断されるため物流が滞ったり緊急車両が通りにくくなったりといったデメリットも生じてきます。
開かずの踏切を解消するには?
甚大な影響を与える、開かずの踏切を解消するにはどうすればいいのでしょうか?
やはり線路の高架化や地下化が一番の解決策です。しかし、高架化にも地下化にも大規模な改修工事が必要となります。大規模な改修工事には時間がかかり費用もそれなりにかかってきます。そのため、いくら国土交通省から改善を義務化され工事を進めたいと思っていても、なかなか工事が進まないのは仕方がないのかもしれません。
大規模な改修工事だけでなく踏切事故を防ぐために自動車と歩行者のレーンを色分けしたり歩行者用の立体横断施設の設置をしたりといった取り組みもなされています。遅々として解決に至っていないようにみえる踏切事故の対策ですが、少しずつ着実に進められているのです。
開きっぱなしの踏切(2023年11月11日追記)
開かずの踏切とは真逆の『開きっぱなしの踏切』をご存知でしょうか。実は踏切は、下記のように第1種〜第4種までの4種類に分けられています。
・第1種踏切:自動遮断機の設置、または踏切保安係が配置されている踏切
・第2種踏切:一定時間を限り踏切保安係が遮断機を操作する踏切(現在はない)
・第3種踏切:踏切警報機と踏切警標がついている踏切
・第4種踏切:踏切警標だけの踏切
『開きっぱなしの踏切』とは、このうちの第4種の踏切のことで、踏切であることを示す警標のみが設置されており、警報機も遮断機もない踏切のことを指します。つまり、列車の接近を自分の目と耳だけで確認して渡る必要があり、開かずの踏切とは違う意味で大変危険な踏切です。実際に悲惨な事故が多数起こっており、その事故の発生頻度は第1種踏切のなんと2倍弱。この第4種踏切は、2021年時点で全国に約2600か所残っていることが総務省の調査で明らかになっており、これらの踏切の解消に取り組むよう国土交通省に勧告がなされました。鉄道営業法に基づく現行の技術基準では、踏切には遮断機か警報機を設置するよう規定されているため、今後第4種踏切を新設することはできないのですが、現行基準の策定前から存在しているものがまだ多く残っているというわけです。第4種踏切の廃止もしくは改良が必要とされていますが、周辺住民の同意が得られなかったり、改良費用がかかるため、なかなか思うように進められないのが課題となっています。
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全国に点在する開かずの踏切
日本全国にある開かずの踏切はおよそ600か所ですが、そのうち半数は東京都内にあります。また、その開かずの踏切の中でも特に踏切遮断時間が長い踏切は東京や大阪、名古屋に集中しています。踏切は列車だけでなく歩行者や自動車などさまざまな手段で通行することができるため、安全面を考慮して事故の原因となりうる開かずの踏切の改善は国土交通省からも義務付けられています。
連続立体交差事業とは?
開かずの踏切の解消に有効な連続立体交差事業は、線路を高架化もしくは地下化することで踏切自体を撤去する工事です。高架化には仮線方式、別線方式、直上方式の3つの方式がありますが、仮線方式や別線方式の場合は周辺の用地の確保が、直上方式の場合は最終列車の発車以降しか工事できないため夜間しか工事ができない、といった問題点もあり、工事が完了するまでにはかなりの時間が必要となります。
連続立体交差事業のメリット
連続立体交差事業によって線路が高架化されると、ホームの増設もできるため相互発着が可能になります。相互発着により同時に2本の列車がホームに乗り入れることができるため列車の運行本数を増やすことができ、満員電車の混雑の解消にもつながります。また、小田急線のように線路を地下化することで複々線化も可能になるため、急行と各駅停車が分けられ、よりスムーズに運行することができます。
京都市の取り組み
洛西口駅付近で行われている連続立体交差事業は交通渋滞の解消や地域の活性化を目的として行っているため、線路の高架化だけでなく街づくりもかねて自転車や歩行者用の関連側道工事も行っています。高架化の切替工事は完了し、工事前に比べると踏切の遮断時間もだいぶ短縮され、開かずの踏切によって引き起こされていた交通渋滞の問題もだいぶ改善されています。